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ヒット生むか 「文具萌え」コミュニティー全国に続々

会社支給減り、選ぶ楽しみ

文房具をこよなく愛するコミュニティーが全国で増殖中だ。交流サイト(SNS)で交友の輪を広げ、お気に入りを持ち寄り活発に情報交換する。話題の中心は数百~数千円の実用品。企業のコスト削減で支給品が減り、自分好みの品を吟味する機会が増えたことも一因だ。最近は「文具萌え」の視点が店の品ぞろえや製品に生かされる事例もあり、市場への影響力は無視できなくなった。

■ 化粧品・銀行…勤め先は様々
ヒット生むか 「文具萌え」コミュニティー全国に続々_d0250498_17313764.jpg11月9日の午前7時30分。東京・シブヤのコワーキングスペースに社会人9人が集まった。4月に発足した「文具朝活会」だ。
毎週金曜日、1時間ほどお気に入りの文房具や使い方について語り合う。参加者は20~40代で勤め先は化粧品メーカー、銀行など様々だ。中心メンバーの高木芳紀さん(41)は「フェイスブックで存在を知り、参加する人も多い」と話す。

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この日、盛り上がったのは清水敬輔さん(29)が持参したスライド式のパンチ機。紙をセットして持ち手を横にスライドすると一気に30個ほど穴があく。参加者は「オー」と歓声を上げ「色紙に穴をあけたら柄になるよね」と話が弾んだ。高木さんによれば同様のコミュニティーが都内に複数あり、朝食会などを開いているという。「会社からの支給が減り、自分で文房具を選ぶことが増えた。そこで消えるボールペンなど高機能品の存在に気付き、興味を持つ人が一段と増えたのでは」と分析する。

同日の午後7時には東京・秋葉原の居酒屋で別の会合が開かれた。「最近買ったボールペンの替え芯だよ」。出席者が自慢げにお披露目する。主催した落合科謙次郎さん(31)は「同じような飲み会に誘われて何回か出席したので、自分も開こうと思った」という。

参加者の約半分は文房具会社の社員。自社製品を紹介したり、最近買った商品を自慢したりと10時まで続いた。オフィス機器メーカーに勤める青沼成美さん(23)は「月1~2回はこうした会に出る」と話す。
文房具のコミュニティーは地方にも誕生している。長崎市の老舗文房具店、石丸文行堂は10月中旬からフェイスブックで10人の参加者を募り、開業前に店内で語り合う会を始めた参加者が愛用品の活用策を披露し合う。「思わぬ話の発展があるので面白い」(石丸忠直常務)。関西にもツイッターでコミュニケーションする「どや文具会」があり、定期的に会合を開く。
愛好家の有志が年2~3回、東京・台場で開くトークライブ「ブング・ジャム」には毎回約100人が集まる。主催者の一人、他故壁氏(ペンネーム、45)は「文房具好きは昔からいたが、孤立していた。SNSの普及で愛好者同士がつながった」とみる。

■ 企業・店に刺激、卸が「文房具女子会」開催
使い勝手やデザインを吟味する愛好家の視点は、企業や市場にも様々な刺激を与え始めている。
フリーのパティシエ、青木渚さん(26)は20日夜、東京・表参道の「文房具カフェ」が開いた「新商品仕入会議」に参加した。このカフェは卸の東光ブロズ(東京・墨田)が6月に開業。来店客の8割を20~30代女性が占める。200の扱い品目を近く1000に増やす予定で、ここに女性客らの意見を生かす。

自分の文房具にこだわる青木さんは「赤くてスタイリッシュなシャープペンシルを仕入れて」と会議で提案した。奥泉輝店長は「会社支給も無くなったので、持つならかわいいのがほしいという人が多い」と話す。22日には「文房具女子会」も開き、品ぞろえのヒントを探った。

SNSなどの普及で、近年は愛好者の声が商品の売れ行きを大きく左右するようになった。例えば三菱鉛筆のシャープペンシル「クルトガ」。芯が回転してとがり続ける商品で、2008年の発売当初は「試し書きでは特徴は伝わりづらいのでは」と懸念する声が社内にあった。だが、愛好者がブログなどで紹介し、これを読んだ学生から人気に火がついた。「最近は大人にも浸透」(同社)し、すでに累計2千万本強が売れた。

矢野経済研究所(東京・中野)によると、法人需要の縮小で11年度の文具・事務用品の市場規模は4764億円と10年度から1.5%減った。12年度も1.3%減の見通しだ。ただ「個人需要の盛り上がりでノートやボールペンは伸びている」(同研究所)。コミュニティーや個人の情報発信が、今後は市場を下支えするかもしれない。

■大手が商品化、「4000円手帳」ほぼ完売
文房具好きの個人が開発した製品を、大手メーカーが商品化するケースも出てきた。コクヨが9月に発売した「ジブン手帳」(3990円)だ。

「24時間の予定をかき込める手帳が欲しい」。博報堂のCMプランナー・ディレクターの佐久間英彰さん(37)は、市販品に不満を抱いていた。深夜の会議が多く、オフの予定も管理したい。だが時間軸に沿って予定を書き込む従来品の大半は、記入欄が午前8時から午後11時までしかない。

中学生時代から文房具好きだった佐久間さんは自作を決意。パソコンでデザインし、初代の24時間制マイ手帳を07年に製作した。10年には出版社に販売を提案。漫画雑誌のタイアップ企画として、「ジブン手帳」と名付け売り出した。ただ、完成したのは12月。5120円と高価なこともあり、あまり売れなかった。
出版社は翌年版の販売を見合わせたが、佐久間さんは「買ってくれた人に申し訳ない」と12年版を自費製作。自ら卸や書店に営業した。11月中旬に発売すると約1500冊が完売した。

ジブン手帳は日々の記入欄がタテ方向に伸び、24時間で区切られている。ヒット生むか 「文具萌え」コミュニティー全国に続々_d0250498_17353337.jpg3食のメニュー、天気を書き込む欄があり日記として使える。家計図や人生設計、旅行先などをかき込む地図をとじ込んだ冊子も付く。「従来の手帳は1年単位だけど、これは一生分」
これに関心を寄せたのがコクヨだ。同社の手帳は350円が主力。高額品への慎重論もあったが「遺言書キットなどライフログ関連品の入り口になる」(コクヨS&Tの山崎祐二さん)と13年版の製品化を決定。今はほぼ完売の状態だ。
メーカーが個人のアイデアを採用するのは「レアケース」(コクヨ)。ただ3D(3次元)工作機の登場など、消費者が自ら好みの一品を作る環境は整ってきた。「文具萌え」発のヒットがいつ誕生しても不思議ではない。

2012.12.16 日本経済新聞
by sonicont1 | 2013-01-11 17:38 | 経済